一般成人男性の約30%以上が睡眠障害の症状を有します。睡眠障害は眠気や倦怠感などを伴うこともあります。がん患者さんの中には治療等で睡眠障害を伴うQOL(生活の質)の低下に悩みを持つ方もいます。睡眠障害の原因は様々ですので症状が現れた場合、まず担当医や医療従事者などに相談しましょう。ここでは、睡眠と免疫との関係を交えながら、質の良い睡眠を得るためのセルフケアを紹介します。実際の程度や効果には生活環境等によって個人差がありますので、ご自身に合った工夫を試してください。
睡眠のメカニズム
睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠で構成されています。レムとは英語でREM(Rapid Eye Movementの略)と表し、急速眼球運動を意味します、寝ている間でも眠りが浅く眼球が動いている状態で、健康な成人の総睡眠時間の約20%を占めます。脳が活動しているため、夢を見ているのはレム睡眠中であるとされています。
一方、ノンレム睡眠はレムではない眠りの深い状態のことを表します。ノンレム睡眠は眠りの深さの度合いによりN1からN4のステージに分けられます。ステージのN1は睡眠と覚醒の間の移行状態で、ゆっくりとした眼球運動の段階も含みます。N1はその後のN2と合わせて総睡眠時間の約50%を占めます。さらに眠りが深くなるN3は総睡眠時間の約20%占めます。
寝ている間はレム睡眠とノンレム睡眠が繰り返され、例えば睡眠時間が平均8時間の場合はこれらのサイクルが約5回含まれ、それぞれが約90分間続きます。N3とN4は睡眠の前半に優勢で、睡眠が進むにつれて減少します。対照的に、レム睡眠は睡眠の初めは短く、後半に長く頻繁になります。
睡眠と免疫との関係
睡眠と免疫は双方向に関連しています。炎症性サイトカインのインターロイキン-1(IL-1)や腫瘍壊死因子(TNF)、プロスタグランジンD2(PGD2)がノンレム睡眠の量や強度の調節に重要な役割を果たしています。例えば病原菌などに感染した場合、これらの炎症性サイトカインとPGD2は睡眠を誘発する役割を持ちます。
一方、睡眠を強化することにより、免疫系へのエネルギー配分を促進し、またホルモン群を誘導し免疫系に働きかけることで生体防御を促進すると考えられています。睡眠不足が長引くと体の防御システムが弱まり、風邪やその他の感染症にかかりやすくなります。
睡眠は感染症に関連する免疫機能だけでなく、炎症性疾患とそれに伴う鬱病や不安症、肥満、心血管疾患、および痛みを含む病状にも影響を与えます。睡眠障害は感染症のリスク、心血管疾患やがんなどのいくつかの主要な医学的疾患の発生と進行、およびうつ病の発生率に大きな影響を与えることが報告されています。睡眠障害はアレルギー反応を増加させ、腫瘍関連の免疫反応を悪化させる可能性があります。
短時間あるいは長時間の睡眠や不眠症を含む睡眠障害は、体内の免疫細胞数や炎症マーカー、細胞老化マーカーの調節変化に関連しています。そしてこれらの調節変化は、睡眠が疾患リスクに影響を与える潜在的なメカニズムを構成している可能性があります。
習慣的な短い睡眠時間について調査した研究では、炎症性タンパク質(特にCRP(C反応性蛋白)、IL-6)の増加、白血球数の増加、NK(ナチュラルキラー)細胞活性の減少、およびテロメア長の短縮など、免疫との関連性を支持していました。 これらの変化は、習慣的な短眠者について報告されている死亡率と疾患リスクの増加に寄与している可能性がありますが、それらの潜在的な因果的役割については、さらに研究で明らかにする必要があります。
手術前後の睡眠障害は、術後の回復時間の延長と痛みの増加に関連していることが示されています。そのため、術前後に睡眠を管理することで痛みを軽減し、回復プロセスを早める可能性があります。
がん患者さんの疲労と睡眠との関係
睡眠障害はがん患者さんと生存者によくみられ、疲労と相関します 。疲労について睡眠を調査した縦断的研究では、治療前の睡眠障害は治療中の疲労の上昇と関連している事が示されています。
がん治療完了後の持続性疲労の予測因子を決定するための臨床試験では、治療後最初の1年に重度の持続性疲労が示され、予測因子として睡眠障害が関連していました。
また別の乳がん患者を対象とした治療後6年間の追跡試験では、治療後から疲労が高い軌道の患者群は睡眠障害のレベルが高かったことが報告されています。
さらに化学療法中の婦人科がん患者78人を対象とした睡眠と疲労、うつ病の遅発性の関係を調査した臨床試験では、睡眠障害の増加がその後の疲労につながり、それが抑うつ気分の上昇につながることが報告されています。
安眠を得るための工夫
不眠症と関連して活性化されるストレス応答経路を標的とするリラクゼーションベースのアプローチが免疫反応に影響を与え、不眠症の症状を改善することを多くの研究で実証されています。
例としてマインドフルネス瞑想は、介入後およびフォローアップ時の対照群と比較して、睡眠の質を大幅に改善しました。
また、ヨガに関しては、無作為化(ランダム化)比較試験と非ランダム化試験との両方で、治療を受けている人々の睡眠と疲労がヨガによって改善されるという証拠が増えています。
さらに運動に関するランダム化比較試験を含む解析では、治療後の運動の介入は睡眠障害を改善するために有益な影響がある可能性を示しています。
マインドフルネスやヨガ、運動の効果についてはそれぞれ実践方法などを紹介していますので、そちらもご覧ください。
以上を踏まえて、リラクゼーションを含めた安眠を得るための5つの工夫例と、実践のための関連アイテム等を紹介します。
1.生活のリズムをつくる
- 食事の時間や就寝時間などに規則的な生活リズムをつけます。
- 就寝前にルーチンを持つことも就寝への誘導方法として期待できます。
2.からだを動かす
- 定期的に無理のない範囲で軽い運動やストレッチ、ウォーキング、ヨガなどをします。
- 可能であれば日光を浴びながらの体を動かします。
3.カフェイン、アルコール、喫煙は控える
- 寝る4時間前のあたりからカフェインが入った飲み物(例:コーヒー、日本茶)、食べ物(例:チョコレート)は摂らないないようにします。
- 飲酒と喫煙は睡眠を困難にさせる原因となるため、制限します。
4.睡眠環境を整える
- 寝る以外の活動になるようなもの(パソコンやスマートフォンなど)を寝床の近くに置かないようにします。
- 寝る前1~2時間前にパソコンやスマートフォンの使用をオフにします。就寝前にタブレットパソコン等で電子書籍を読むと本と比較して眠気の減少や、熟睡を阻害することが報告されています。
- 就寝時、音が気になる場合、例えば耳栓、ホワイトノイズマシンを利用します。
- 就寝時、明かりが気になる場合、例えば遮光カーテン、アイマスクを利用します。
ホワイトノイズマシンの商品例
遮光カーテンの商品例
5.リラックスする
入浴やマッサージで血行の循環を促進したり、音楽、アロマセラピー、映画やテレビ等、リラックスする方法は人それぞれですが、当サイトでもリラックスするための工夫を紹介していますので、ご参考にしてください
アロマセラピーでは、植物成分の精油(エッセンシャルオイル)をお風呂に数滴入れたり、ディフューザーで拡散し吸入したり、マサージで皮膚から吸収してリラックス効果を図ります。
エッセンシャルオイルは40種類以上使用されていますので、その中でご自身の好みに合った香りと濃度を選んで楽しみます。エッセンシャルオイルの種類にとってホルモン療法に影響を及ぼしたり、まれに皮膚障害になる可能性がありますので、使用の際は担当医等医療従事者に相談してください。
アロマセラピーの詳細については当サイトでも紹介していますので、ご参考にして下さい。
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