抗がん剤治療による副作用のだるさ・倦怠感や食欲不振、便秘の対処法としてウォーキングやストレッチ、ヨガなど軽い運動を取り入れることを、当サイトを含むがん情報サイトで推奨しています。ここでは、がんの治療中や治療後における運動の効果について、免疫との関係も含めながら紹介します。
運動療法とは
がんの進行や抗がん剤治療による副作用、あるいは放射線治療や外科的手術による後遺症などの影響で、サルコペニアなど体力や筋肉が低下し体重が減少することがあります。そのような症状に対処するため、筋肉の分解を防ぐ栄養素、例としてタンパク質やBCAA(分枝鎖アミノ酸;バリン、ロイシン、イソロイシン)や、ビタミンD、オメガ3脂肪酸(DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタ塩酸))を摂ることが薦められています(栄養や具体的な食材について当サイトで紹介しています)。
また、もう一つの対処方法は運動療法を取り入れることです。運動療法には以下の種類があります。
有酸素運動;酸素を取り入れ、糖や脂肪を分解することでエネルギーを作り出しながら一定時間継続的に行う全身運動
例)ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリング、エアロバイク、ラジオ体操、ヨガ、太極拳など
レジスタンス(抵抗)運動;筋肉に対し一定の抵抗負荷をかけて行う運動
例)ストレッチ体操、ダンベル、腕立て伏せ、スクワットなど
運動療法による臨床効果
がんの治療中あるいは治療後の運動療法は、これまで行われてきた無作為化(ランダム化)比較試験で効果が示されています。試験で行われた運動の種類はウォーキング、サイクリング、ヨガ、筋肉トレーニング、気功、太極拳など様々です。運動を行った時間や回数、期間が各試験で様々なため、それぞれの運動ついての効果を言及することはできませんが(ヨガの効果については当サイトで紹介していますので、ご覧ください)、運動全般の効果については日本緩和医療学会発刊の「がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス2016年版」では次のように示されています1)。
乳がんや頭頚部癌患者の治療に関連した肩の痛みの軽減に有用
大腸がんを除く乳がん、肺がん、造血器腫瘍など様々ながん一般の症例に対して、がん治療中あるいは治療後の倦怠感の軽減に有用
睡眠障害の軽減に有用かもしれない。
身体機能BMI、体重、体組成、体脂肪、酸素消費量)や耐久力、心肺機能、上下肢の筋力、活動量、運動耐性、運動許容量、免疫機能、リンパ浮腫、骨密度の改善、退院促進に有用
造血器を除くがん患者に運動療法(有酸素運動、抵抗運動(=レジスタンス運動)、ヨガ、気功、太極拳等)を行うことは不安、抑うつ、ストレス、感情的健康状態、情緒的健康の改善に有用
がん治療中・後を含め、がん一般、乳がん、造血器腫瘍の患者に運動療法を行うことは、全般的なQOL(生活の質)を改善する。
運動は、エネルギーを消費する活動で、全身と細胞の代謝に激しい変化を引き起こします2)。代謝の変化は、がん患者さんにとって以下のような臨床的な良い影響があることが多くの臨床研究で示されています。
- 標準治療の有効性の改善
- 免疫細胞の活性化
- がん細胞の成長の制御
- こころの状態の改善
標準治療の有効性の改善
放射線療法は、がん細胞内のDNAを傷つけるだけでなく、酸素を活性化させて死滅させるため、がん細胞内に十分な酸素供給を必要とします。また、化学療法は薬剤が標的とする腫瘍まで到達することが必要です。そのためには酸素と薬剤を運ぶ血管の機能低下を防がなければなりません。運動をすると体温が上昇します。運動による体温上昇は血管の機能を改善し、放射線療法や化学療法の有効性を改善することが示されています3,4,5)。
外科的手術に対しても、筋力や心肺機能の増加は手術後の回復を早め、合併症の発症を低下させる可能性があります6)。
運動介入試験に参加したがん生存者は、心肺機能と筋力に大きな改善を示しています。例えば、自転車エルゴメーター(エアロバイク)で週3回、15週間のトレーニングを組み入れた閉経後乳がん生存者53人を対象とした無作為化比較試験では、肺機能と生活の質(QOL)に改善があったことが確認され7)、特に小児患者を対象とした試験では、心肺機能と筋力の改善に有益な結果を示しました7)。
また、運動は悪液質やうつ病、不安、認知機能など、がんや治療に関わる副作用を軽減させます3)。例えば悪液質では、運動トレーニングにより筋肉量と筋力を増加させ、筋タンパク質の蓄積を改善することが示されました8)。
免疫細胞の活性化
前述のように、運動をするとエネルギーや酸素など筋肉の活動に必要な物質を輸送させるため、体温が上昇し、血管が拡がります。この血管の拡張は、免疫細胞の腫瘍箇所への移動も促進させます2,3)。
腫瘍の内部にはがん細胞の急激な代謝によってできた乳酸が蓄積しています。乳酸は免疫細胞の活動を抑制しますが、運動により乳酸レベルが低下するため、免疫細胞の抑制が軽減する可能性があります3)。
がんをはじめとする慢性炎症は、一般的に炎症性サイトカインと呼ばれるタンパク質の粒子が体内に大量に循環している状態です。炎症性サイトカインは本来、免疫反応を促進するために一時的に必要なものですが、長い間あり続けると逆に免疫機能の低下を引き起こしてしまいます。運動でも、例えば筋トレをした後の筋肉痛のように、短い時間に筋肉へ負荷をかけると炎症を起こします。このときの筋肉は炎症性サイトカインを分泌しますが、暫くすると炎症を鎮めるために抗炎症性サイトカインが分泌されます。そのため、慢性炎症の場合、運動をする度に炎症性サイトカイン優位の状態は崩壊します9)。実際、運動は非常に明確な抗炎症効果があり、炎症性サイトカインを減らし、抗炎症性サイトカインを増やすことが実証されています8)。
また、運動中は副腎からカテコールアミンの分泌が増加します4)。カテコールアミンはアドレナリンやノルアドレナリン、ドーパミンなどの神経伝達物質の総称です。 カテコールアミンが骨格筋細胞に結合すると、抗炎症性サイトカインの環境を促進させ、炎症性サイトカインの働きを阻害することから9)、カテコールアミンは慢性炎症を混乱させる一因と言えます。さらに運動によるカテコールアミンの増加は、免疫細胞のNK細胞を動員することが報告されています4,10)。
がん細胞の成長の制御
腫瘍は外的因子によって影響を受けやすい性質を持っています2)。そのため、運動のために優先される身体のエネルギー消費は、がんの成長を抑えている可能性があります2)。多くの研究では、運動が死亡リスクや再発リスクの低下に関与していることを報告しています3)。例えば、診断前から診断後まで身体活動を増やした大腸がん患者は身体活動に変化がない、診断前に活動していない・不十分な患者に比べて死亡率が低下したことが報告されています3)。
こころの状態の改善
このように運動は腫瘍と治療に関連する悪影響を軽減する可能性があり、これは患者さんのこころの状態も改善する効果が期待できます11)。治療後の運動トレーニングは生活の質(QOL)の改善や倦怠感、疲労、うつ病の軽減に関連することが示されています6,11,12)。以下に臨床結果の一例を紹介します。
- 運動の介入は乳房や大腸、前立腺、頭頸部、婦人科、造尿癌を含む様々ながんに対して、治療中や治療後の疲労の改善に関係していることが無作為化(ランダム化)比較試験で示されています8)。
- 治療中あるいは治療後の成人がん患者3694人を対象とした40件の無作為化比較試験と対照臨床試験では、筋肉トレーニング、ウォーキング、サイクリング、ヨガ、気功、太極拳を含む運動の介入は、対照患者と比べ疲労の軽減をはじめ、生活の質(QOL)や睡眠障害などの改善に効果があることが示されました7)。
- 異なるがん種のがん生存者3254人を対象とした44件の無作為化対照試験でも運動介入後の疲労の減少を示しています7)。
- 手術後の乳がんの女性(ステージII〜III)を対象としたランダム化比較試験では、最初の4か月間で苦痛の減少や健康的な食習慣(高脂肪食品の回避)、喫煙率の低下を報告しました13)。
運動の目安とラジオ体操の効果
では実際どのくらい運動を取り入れたらよいでしょうか?例えば、一つの目安として国立がん研究センター「がん情報サービス」では、“有酸素運動を最大心拍数の60〜80%の強度を20~30分間、週3回~5回”と記されています14)。
最大心拍数はカルボーネン法という以下の式で求められます。
例えば40歳、安静時心拍数が60の場合、(220-40)-60=180なので最大心拍数は180になります。
また、最大心拍数の60〜80%が目標の心拍数となりますが、目標心拍数は以下の式で求められます。
60〜80%の強度の場合は((220-40)-60)×0.6+60=132と、((220-40)-60)×0.8+60=156となり、132~156が目標心拍数になります。
つまり、40歳で安静時心拍数60の方は、有酸素運動を心拍数132~152の範囲で20~30分間、週3~5回行う、となります。
ラジオ体操の効果
有酸素運動は、前述のようにウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリング、、エアロバイク、ラジオ体操、ヨガ、太極拳などが挙げられます。その中でもラジオ体操は第1、第2共に息が弾み汗をかく程度の運動強度があります。運動時間はおよそ3分間ですが、天気に左右されず家の中で毎日続けて行える運動の一つです。ラジオ体操の介入によるがん患者への影響に関しては、乳がんに関連したリンパ浮腫の患者22人に対してラジオ体操と呼吸法、リンパドレナージを含む10分間のセルフケアを6か月間続けたところ、リンパ浮腫に関連する症状が改善された、という報告がされています15, 16)。
運動の選択は好みなど個人の環境やライフスタイルに合わせて調整する必要があるかもしれません。また運動量は年齢や体重、体調などに合わせて調整し、目標が無理をせず毎日達成できるプログラムを作成する必要があります17)。そのため、運動を行う前には担当医とその医療機関の理学療法士や運動療法士等に相談することが良いでしょう。
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