がん細胞が増殖するために筋肉のタンパク質を分解することや、食欲不振、吐き気・嘔吐などの副作用で食欲をなくすことが痩せる原因になります。 筋肉の分解を抑える栄養素、BCAA(分岐鎖アミノ酸;バリン、ロイシン、イソロイシン)やビタミンD、 EPA(エイコサペンタエン酸)を摂ることが、体重減少を防ぎ免疫の維持に繋がります。これらの栄養素が多く含まれる食品をバランスよく日々の食事に取り入れましょう。
栄養と筋肉との重要な関係
栄養摂取の減少にあらわれる筋肉量・筋力の低下
体重減少は多くの場合、病気の過程で発生する栄養摂取が変化したときに最初の兆候です1)。がん患者さんの多くは栄養状態が悪く、40~80%が病気の経過中に栄養失調になると推定されています1)。栄養失調は重度の筋肉量の低下として現れます2)。50%以上のがん患者さんはがんの診断時に筋肉量の低下がみられます。これは健常人(中央値65歳)の15%と比べてかなり高い発症率です2)。
筋肉量の低下は、身体機能や生活の質(QOL)の低下だけではなく、治療結果にも影響を及ぼし、手術後の合併症のリスクを高めることや生存率の低下にも関連していることが認められています1,2,3)。
サルコペニアは筋肉量の低下が進んでいる症状
全身の骨格筋量の減少と筋力の低下が進んでいる病態をサルコペニアといいます4)。サルコペニアは体重や脂肪量の減少と無関係に発生します1)。
サルコペニアを促進させる原因は加齢によるものと、エネルギーとタンパク質の摂取量の低下・不足につながる食事の変化、運動不足(座りがちな行動様式)、酸化ストレス、血中の炎症性サイトカインの増加など様々です5)。
サルコペニアを引き起こす疾患にはがん、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、心不全、腎不全などがあります6)。進行期のがんでは筋肉の消失が時間の経過とともに加速していきます。例えば、結腸がん患者の12か月間の累積損失の合計は15.6%で、約30年の老化に相当します。これはがんの進行に加え、外科的手術や薬物療法などの治療の影響による結果です6)。
がん悪液質は炎症性サイトカインなどが原因による炎症病態
筋肉の代謝は筋タンパク質の合成と分解のバランスで維持されています5)。がんは炎症性サイトカインというタンパク質の粒子が多量にあり続ける慢性炎症の状態です。がん関連の悪液質は炎症性サイトカインが筋タンパク質の分解の促進に直接作用し、代謝バランスを崩すことで筋肉が消耗する症状をいいます5,7)。そのため、がん悪液質は炎症性サイトカインなどが原因による炎症病態と捉えられ8)、食欲不振や無力症、貧血など、生活の質(QOL)を一層悪化させる原因になっています5)。
悪液質の発生率は胃がんまたは膵臓がんの患者で80%を超えます。肺がん、前立腺がん、または結腸がんの患者では約50%が罹患しており、乳がんや進行性頭頸部がん、一部の白血病の患者は約40%発症します。悪液質の程度と拡大は病期に依存します5)。
がん診断後は薬物療法や放射線療法、外科的手術などの標準治療を行いますが、これらの治療は栄養状態に影響を及ぼすことから、悪液質の原因となる可能性があります5)。
栄養状態が悪いと治療に対する耐性と反応を損なう可能性があり、合併症の増加や回復の遅れ、入院期間の延長などに繋がります9)。さらに治療中断のリスクが高まり、生存率が低下するといった可能性もあります1)。
筋肉量の低下を防止する栄養素例
したがって、筋肉量の低下を防止することは治療の結果や罹患率、生存率を改善する可能性があります2)。筋肉量の低下を防止するためには栄養失調状態やサルコペニア、悪液質の早期発見が重要です。また、体組成へ好影響を与えるための意図的な栄養摂取と管理も重要な要素です1)。推奨されている主な栄養素にはタンパク質、オメガ3脂肪酸、ビタミンDなどがあります。筋肉量の低下を防止するためには栄養失調状態やサルコペニア、悪液質の早期発見が重要です。
これらの栄養素に関するこれまでの知見の一部を以下に紹介します。がんの種類や場所が異なれば、栄養パターンも異なり、個別の栄養療法が必要になります1)。
栄養の管理は、がん患者さんの病歴、病期、および治療への反応によって異なります。従って、さらに研究を重ねる必要があり、一概にこれらの栄養素を多く摂れば改善するというものではありません。自分に適した栄養管理については担当医や医療機関の栄養管理士などと十分相談することが良いでしょう。
タンパク質
筋肉を構成するタンパク質の分解を防ぐためには、より多くのタンパク質を摂取し、筋肉の合成へと誘導することが重要です。欧州静脈経腸栄養学会(ESPEN)のガイドラインでは、健康な成人男性の1日あたり0.8g kg /体重/日(日本の食事摂取基準(2021年版)、では0.66g /体重/日)10)よりも多い1.2~1.5g /体重/日のたんぱく質量の摂取が推奨されています2)。
しかし、がん患者さんはその推奨摂取量を満たしていないだけではなく、成人男性の量にも達していません1)。サルコペニアや悪液質の影響により食欲がないなどの状態では、少しの量でもタンパク質の含有率が高い食品を取り入れ、効率よくタンパク質を摂取することが必要です。また、摂取したタンパク質を効率的に筋肉合成の供給源とするための食事のタイミングも考慮する必要があります2)。
筋肉は運動をすることで必要な筋タンパク質がつくられます。摂取したタンパク質はその筋肉量の増加をさらに促進します11)。筋肉の獲得効果を高めるために少なくとも毎朝、運動後1時間以内にタンパク質を摂取する必要があります9)。
分岐鎖アミノ酸 (BCAA)
タンパク質を構成する20種類のアミノ酸のうち、筋タンパク質の合成を促進するために重要な役割を果たしているアミノ酸がバリン、ロイシン、イソロイシンです。これらのアミノ酸はヒトでは合成できず食品から取り入れる必要のある必須アミノ酸の一種で、総称して分岐鎖アミノ酸、BCAA(Branched Chain Amino Acid)と呼ばれています2)。
ホエイプロテインはカゼインプロテインとともに牛乳に含まれている必須アミノ酸が多く含まれている水溶性タンパク質です。ホエイプロテインはロイシン含有量が豊富なため、運動後の骨格筋のタンパク質合成に効果的であることが示されています9,11)。
BCAAを多く含む食品例
魚介類の中でBCAAを多く含むものは数の子、トビウオ、カツオ、サバ、タタミイワシなどが挙げられます。煮干しや削り節などそれぞれ乾燥させた食材に多く含まれます。
バリン | ロイシン | イソロイシン | |
干し数の子 | 5400 | 7300 | 3800 |
トビウオ煮干し | 4100 | 6400 | 3600 |
カツオ鰹節 | 4000 | 5900 | 3500 |
カツオ削り節 | 4000 | 5900 | 3400 |
サバ節 | 4000 | 5600 | 3300 |
タタミイワシ | 3800 | 5700 | 3100 |
肉類の中でBCAAを多く含むものは牛肉(ビーフジャーキー)、豚ヒレ肉(焼き)、若鶏むね肉(焼き)、若鶏ささみ肉(ソテー)などが挙げられます。
バリン | ロイシン | イソロイシン | |
ビーフジャーキー | 2700 | 4400 | 2500 |
豚ヒレ肉(焼き) | 2000 | 3200 | 1800 |
若鶏むね肉(焼き) | 1900 | 3100 | 1800 |
若鶏ささみ肉(ソテー) | 1800 | 3000 | 1800 |
大豆類の中でBCAAを多く含む食材は高野豆腐、湯葉などが挙げられます。
バリン | ロイシン | イソロイシン | |
高野豆腐 | 2700 | 4500 | 2600 |
湯葉 | 2700 | 4400 | 2600 |
乳製品の中でBCAAを多く含むものはナチュラルチーズが挙げられます。ナチュラルチーズの中でもパルメザンチーズ、エダムチーズ、エメンタールチーズ、ゴーダチーズが多く含まれます。
バリン | ロイシン | イソロイシン | |
パルメザン | 2900 | 4300 | 2300 |
エダム | 2100 | 3000 | 1500 |
エメンタール | 2200 | 3000 | 1600 |
ゴーダ | 1900 | 2700 | 1400 |
EPA(エイコサペンタエン酸)
がん悪液質は様々なサイトカインを介する炎症状態ですが8)、 魚油に含まれているエイコサペンタエン酸(EPA)は、その炎症を軽減する栄養素です。EPAは体重の増加を誘発し、食事の摂取量を増やすなど、栄養状態や体組成を調整することが示唆されています1,2)。
さらに、オメガ3脂肪酸(ドコサヘキサエン酸(DHA)とEPA)はがん細胞の増殖を阻害し、毒性を低下させる可能性も示唆されています1,2)。診断後にオメガ3脂肪酸の摂取量を増やした大腸がん患者は、摂取量を変更又は再発リスクが低下し、生存率が高いことが示されました12)。オメガ3脂肪酸は重大な副作用なしに筋肉量の減少を防ぐ効果的な栄養素である可能性があります1、2)。
EPAを多く含む食品例
すじこ
100gあたり2100㎎
イワシ蒲焼
100gあたり1800㎎
さば水煮
100gあたり1600㎎
イクラ
100gあたり1600㎎
サバ開き干し
100gあたり1500㎎
焼サバ
100gあたり1500㎎
マイワシみりん干し
100gあたり1400mg
ニシン開き干し
100gあたり1400mg
クロマグロ(脂身)
100gあたり1400mg
イワシ缶詰(味付)
100gあたり1400mg
サンマ刺身(皮なし)
100gあたり1400mg
(食品名と数値は食品成分データベース(文部科学省)食品成分ランキングより)
ビタミンD
ビタミンD欠乏症はがんに関連している可能性があり1)、がん患者さんにとって懸念すべき事項です2)。また、ビタミンDは筋肉の消耗と関連していることが報告されています1)。そのため、ビタミンD補給(600〜800国際単位(RDA))は、筋肉の浪費を防ぐ点で有益であることが示唆されていますが、さらなる研究が必要です1)。
ホエイプロテインと組み合わせたビタミンDは、高齢者の筋肉量と機能を改善します2)。
また、ビタミンDは抗増殖や血管新生の抑制、抗炎症など、幅広い抗がん作用も発揮します12)。T細胞や樹状細胞などの免疫細胞に直接作用し、免疫システムを調節していることも明らかになっています12)。
ビタミンDを多く含む食品例
キクラゲ(乾燥)
100gあたり85.4μg
カツオ塩辛
100gあたり120μg
しらす(半乾燥品)
100gあたり61.0μg
マイワシみりん干し
100gあたり53.0μg
マイワシ丸干し
100gあたり50.0μg
身欠きニシン
100gあたり50.0μg
タタミイワシ
100gあたり50.0μg
ニシンくん製
100gあたり48.0μg
すじこ
100gあたり47.0μg
イクラ
100gあたり44.0μg
焼鮭
100gあたり39.4μg
(食品名と数値は食品成分データベース(文部科学省)食品成分ランキングより)
料理レシピサイト一覧
以下の情報サイトでは、さまざまな症状に対応したレシピを提供しています。
CHEER (チア―)
(国立がん研究センター東病院栄養管理部)
がん患者さんやそのご家族を対象にした「柏の葉料理教室」のレシピを症状別などで検索することができます。
もっと知ってほしいがんと生活のこと
(NPO法人キャンサーネットジャパン)
「がん患者さんのためのお料理」のコーナーでは、症状、食材、種類からレシピを検索できます。
SURVIVORSHIP(サバイバーシップ)
(静岡県立がんセンター、大鵬薬品工業株式会社)
「抗がん剤・放射線治療と食事の工夫」のコーナーで様々な症状に応じた献立を検索することができます。
Kama∔aid (カマエイド)
(株式会社リサ・サーナ)
がん治療に伴う「食事の悩み」|解消を目的とした食事の工夫を取りいれたレシピを提供しています。
がんを学ぶ
(ファイザー株式会社)
「がん患者さんのための食事・レシピ集」では食事のジャンル、食材、症状からレシピを検索できます。
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