こころのサポート

がん治療の症状に対するアロマセラピーの効果

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公開日:2020年8月20日

更新日:2023年10月10日

抗がん剤治療によるだるさ・倦怠感、ほてり・のぼせ、便秘、悪心・嘔吐、食欲不振等の副作用の対処法として、気分転換やリラックスを心がけることがすすめられています。リラックス方法の一例としてアロマセラピーが挙げられています。ここではアロマセラピーのがんの療養生活への取り入れ方について、これまでの臨床試験の結果などを踏まえて紹介します。


アロマセラピーとは

アロマセラピーは、植物からの芳香性のある濃縮された精油(エッセンシャルオイル)を使用し、その香りを楽しむことでリラクゼーションを得たり、症状の緩和を図ります。 現在、約40種類のエッセンシャルオイルがアロマセラピーに使用されています。

主なエッセンシャルオイル:

ラベンダー、ローズマリー、ユーカリ、カモミール、マジョラム、ジャスミン、ペパーミント、レモン、イランイラン、ゼラニウム、ティーツリー、ショウガ、シダーウッド、ベルガモット等

使用方法と作用機序

エッセンシャルオイルを入れたお湯やお風呂から吸入する方法や、エッセンシャルオイルを部屋中に拡散させるディフューザーを使用したり、ティッシュペーパー、枕、包帯等に数滴しみこませたものを吸入する方法、また精油を希釈して直接塗るアロママッサージで皮膚や粘膜から吸収する方法などがあります。

エッセンシャルオイルを鼻腔内から吸い込むことで嗅細胞の嗅覚受容体が刺激され、嗅覚情報が大脳辺縁系に伝わり、交感神経系と副交感神経からなる自律神経系に作用します。マッサージなどによって皮膚や粘膜から吸収された場合は、血管から血流によって神経系や内分泌系に作用するとされています。

がん治療に使用される目的

アロマセラピーは心理的、物理的な影響を与えることが言われています。がん患者に対しては、がん治療によって引き起こされる不安やうつなどの精神的症状や、痛み、吐き気、おう吐の身体的症状を軽減するために使用されます。

一方で日本緩和医療学会の補完代替医療クリニカルエビデンス(2016年)では、不安や抑うつ、睡眠障害、倦怠感、痛みなどの症状の軽減に有用であると結論付けられないとしています。

実際、がん患者に対するアロマセラピー介入の効果を明らかにすることを目的とした臨床試験では、効果が認められた試験もあれば認められなかった試験も報告されています。 その例を症状ごとに以下に示します。

吐気・嘔吐

化学療法を受けている乳がん患者60人を対象にジンジャーを使用した試験では、おう吐や吐き気を軽減しませんでした。一方、化学療法を受けた成人患者79人に対してペパーミントを使用するグループと使用しないグループに分けた別の試験では、化学療法由来の吐き気の強度を軽減させる効果を示しました。

不安・抑うつ

放射線療法を受けている313人の患者に対し、ラベンダー、ベルガモット又はシダーウッドのエッセンシャルオイルを吸入するグループに割り当てて不安やうつに対する効果をモニタリングした2003年の二重盲検無作為化試験では、グループ間に違いが認められなかったため、有益ではないと結論づけましたが、 別の報告では、化学療法中の患者70人をラベンダー群、ティートリー群、エッセンシャルオイル無し群にグループ分けして不安について効果をモニタリングしたところ、ラベンダー群で不安の軽減が認められました。また化学療法によるストレスの課題を念頭においた健康なボランティアに対するラベンダーとグレープフルーツを使用したアロマセラピーは、免疫系と自律神経系に作用することでストレスが軽減することを示しました。

睡眠

術後乳がん患者を対象とした無作為化試験では、アロマセラピーは睡眠の質に効果を示さなかったという報告や、ラベンダーが肯定的な効果を示さなかったという報告がある一方で、別の試験ではラベンダーやローズなどのエッセンシャルオイルにより、がん患者の睡眠の質を改善しました。また、急性白血病と新たに診断され化学療法を受けるために入院した患者50人に対しラベンダー、ペパーミントまたはカモミールをディフューザーで3週間吸入したところ、睡眠の質がベースラインに比べて有意な効果が見られました。同じくラベンダーとペパーミントを使用した別の無作為化試験でも、エッセンシャルオイルを使用した患者は睡眠の質が向上したことを示しました。

リンパ浮腫

セルフマッサージとエッセンシャルオイルを含むスキンケアクリームを使用したリンパ浮腫の患者に対する無作為化試験では、客観的四肢容積測定に大幅な減少は認められず、症状の改善に影響を与えるように見られませんでした。

口喝

放射性ヨウ素療法を受けている分化型甲状腺がん患者71人を対象とした無作為化試験では、レモンとジンジャーの混合物を吸入させた患者群は吸入しない対照群と比べて唾液腺機能の改善が見られ、治療による唾液腺の障害予防に有効性があることを示唆しました。

疼痛

ポートカテーテル挿入のため局所麻酔を受けたがん患者60人に対を対象とした非無作為化比較試験で、オレンジ、カモミール、およびラベンダーを蒸留水で希釈調製したものを使用した患者30人は対照群の30人に比べ、手技中の痛みを減少させ、手技の順守を促進しました。また、化学療法を受けるがん患者123人をラベンダーグループとユーカリグループ、アロマなしグループに割り当てた別の試験では、ラベンダーグループでポートカテーテル挿入に関連する痛みを和らげる結果を示しました。

使用上の注意点

このようにエッセンシャルオイルに関する臨床試験は、使用されているエッセンシャルオイルの種類や、吸引方法、対象者、試験の実施期間などが異なり、また対象者も少数なことから、各症状に対する効果を明確にするためにはさらなる臨床試験結果の蓄積が必要と思われます。また、香りはその種類や強さで人により好き嫌いもあるため、試験での細かな設定も工夫が求められます。

一方で、例えばラベンダーの主成分はリナロールと酢酸リナリルで、リナロールによる鎮静や抗不安、抗痙攣効果はストレスを和らげる効果のあるGABA(ギャバ)の調節による可能性が高いという報告からも、アロマセラピーがリラックス気分を誘導していることが示唆されます。

したがって、現時点でのエッセンシャルオイルの使用は、がん患者さんの療養生活の中でストレスの対処方法(コーピング)として、ご自身がリラックスできると思われるエッセンシャルオイルの種類や濃度を選んで楽しむことが良いと思われます。

しかし、例えばアニスの主成分アニトールは選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)としての作用があり、ホルモン療法に影響する可能性があることや、まれに肌に合わず皮膚障害を及ぼすエッセンシャルオイルもあるため、まずは担当医と相談の上、使用されることをお勧めします。


参考文献・ウェブサイト
  • がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス2016年版(日本緩和医療学会)
  • がんの補完代替医療ガイドブック【第3版】(「がんの代替療法の科学的検証と臨床応用に関する研究」班、「がんの代替医療の科学的検証に関する研究」班 )3. 補完代替医療の最新情報 アロマセラピー
  • もっと知ってほしいがんと生活のこと(認定NPO法人キャンサーネットジャパン)いやな気分を解消するために
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コメント

  1. ふわり より:

    有意義な情報がたくさん掲載されていて、素晴らしいサイトだなぁと感動しています。私は治療中含めアロマテラピーにドテラのエッセンシャルオイルを活用してきました。20種類以上、診断されてから→治療中・後→経過観察中の精神的なケアに取り入れることができます。ドテラは今いちばん使われているものなのに掲載されておらず、患者さんのストレスにつながる雑貨扱いのものが紹介されているので、恐れ多いですがコメントさせていただきました。

  2. 宗典 より:

    誠に申し訳ないですが、doTERRAは自社基準に基づく「自称」医療グレードです。客観性に乏しく、また、精油の原料が含む成分が不安定で、安心してクライアントに使用できません。また、販売方法が連鎖販売取引であり、一部では素人が無責任かつ非常識な使用法を勧めており、健康被害など様々なトラブルを引き起こしています。doTERRAよりも信頼できる精油メーカーは、たくさんあります。コントワール・アロマ、フロリハナ、プラナロム、プリマヴェーラなど、ヨーロッパ、特にフランス・ベルギー・ドイツのメーカーのものをお勧めします。